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「漬物」、「清菜」の文字はすでに『延喜式』に用いられており、「つけもの」という訓みもすでに平安時代から使われていた。関ケ原の合戦から88年目が元禄元年(1688)で、このころになると世の中はすっかり落ちつき、泰平ムードがあふれ、江戸は建築ブームで高度成長し景気もよかった。日本人が一日三回食事をするようになるのもこのころで、都会では白米食が一般的になっていた。
江戸時代になると、味覚の多様化が進み、さまざまな新しい漬けものが生れた。とくに江戸では初物を好む趣向を反映して、短時間で仕上げる浅漬けが多くなっていく。主なものだけでも、塩漬け、浅漬け、たくあん漬け、糟漬け、甘酒漬け、糠漬け、酢漬け、無尽漬け、もろみ漬け、昆布漬け、加薬漬け、富田漬け、守口漬け、梅漬け、山椒漬け、こうじ漬け、からし漬け、みそ漬け、なら漬け、しそ漬け、あちゃら漬けなどである。
白米食の一般化が、漬けものの消費を定増させた。微妙な発酵による香味と、ほどよい塩分が食欲を増進させるから、ついつい白米飯を食べすぎてしまう。このため、元禄や文化文政といったはなやいだ時代には、決って″江戸わずらい"という脚気が流行した。ビタミン の極端な欠乏である。
うまい漬けものさえあれば、米自体の味がよいから、他におかずがなくても不自由しない。事実、雪国では春になるまでの副食物は、ほとんどがみそ汁と漬けものであった。それでも、江戸のように精白米ではなかったために、脚気にはならなかったのである。
漬けものが
「香々」や「香のもの」といわれたのは、発酵によって生じるエステルや有機酸、アルコールなどが独特の香気となって食欲をそそるからである。2000年以上もとり続けてきた日本人の体質には、漬けものの匂いがしみついていて容易に離れない。漬けものやみそ汁をとらない日が続いたりすると、落ちつかなくなってしまう。このため、国際競技に参加する選手や、外国旅行するひとたちは、決ってたくあん漬けや梅干し、みそなどをボストンバックの底にしのばせることになる。
現在、日本全体では800種くらいの漬けものがあるが、その内の600種は東北地方のものだ。長い冬にそなえた保存食として発達したためで、低温でじっくり熟成させた方がうまく漬かるから、東北の漬けものは味のよいものが多い。

4-2.

一般的にいって、漬けものは栄養というよりも、嗜好的な食べものだから、味と香りがたいせつになる。この二つの要素を塩圧や発酵によって引き出すために、漬け方や材料をさまざまに工夫がこらされた。
漬けもの本来の目的は、野菜の保存が第一であったが、江戸時代になると、ぬかみそ漬けや浅漬けが歓迎されるようになる。旬のものを新鮮な状態で食べるには、浅漬けの方が合理的なのである。
江戸時代の漬けものに用いられた素材は、つぎのようにバラエティーに富んでいる。
大根、かぶら、なすび、ごぼう、里いも、ふき、うど、みょうが、たで、きゅうり、たけのこ、またたび、しそ、しょうが、ぼうふう、はす、人参、さんしょう、こんぶ、やまもも、小梅、ところ、にんにく、しろうり、からしな、まつたけ、いとな、ささげ、なたまめ、つくし、なし、かき、わさび、すいか、梅、きく、とうふ、らっきょう、からすうり、せり、わらび、きのめ、大豆、みづな、とうがらしなど。山野や野草、くだもの、豆、豆腐と実に千変万化である。

奈良漬け……粕漬けは奈良時代からあり、うりやしょうがなどが材料にされている。奈良
      は古くから良質の酒で知られていたが、酒をしぼるときに″粕″が出る。
      この「酒粕」でうりを漬けたのが、「奈良漬け」のおこりで、味が甘美なため
      に有名になった。うりの粕漬けをいつごろから「奈良漬け」と呼ぶようにな
      ったかは不明であるが、室町時代に「香のもの奈良つけ」ということばが出
      てくる。江戸時代になると、酒造業の発達もあって、粕漬けは各地で用い
      られ、うりばかりでなく大根やなすなども漬けられた。
やたら漬け……うりやなす、とうがらしなどを刻み、塩辛くした醤に漬けたもの。たく
       あん大根の味が少し変わってしまったものでもよい。切って漬けこむ。
       しその実、しようがを混ぜると風味が出る。
かやく漬け……いろいろな漬けものを切り刻み、酒と醤油で調味したもので、福神漬け
       の原形である。
無尽漬け……出盛りのものをなんでも取り合わせて塩漬けにしたもので、『料理物語』で
      は、つぎのような素材をあげている。山椒の皮、きくらげ、梅干し、たけ
      のこ、たけのこの甘皮、こんぶ、ほんだわら、しょうが、ぎんなん、みょ
      うが、ごぼう、小梅、やまもも、ところ、れんこん、みかんの皮、人参、
      青のりなど。
酢漬け……酢一升に塩三合を混ぜて素材を漬け込む。材料はみょうが、しょうが、梅、
     やまもも、たけのこ、うど、ぼうふう、れんこん、人参、山椒、しそ、またた
     び、その他いろいろ。
どぶ漬け……ドブロクにみそを混ぜ、うり、大根、なす、しょうがなどを漬けたもの。
南蛮漬け……酢漬けの一種で、酢、酒、塩を煎して、小魚や野菜を漬けこむ。

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