7-1.

東海地方は、伊勢湾、三河湾、渥美湾と天恵の良湾を三つも、ふところにしているため、古くからグルメが垂涎する「珍味」を多産し、目をつぶれば美しい海の風景とともに、コノワタ、アワビ、タイ、チクワ、イナまんじゅう、大アサリ、エビせんべいなどが即座に浮かんでくる。
最近健康食品として広く人気を呼んでいる″珍味″に
「エビせんべい」がある。カルシウムと質のよいタンパク質が主成分で、古くから主として酒肴によろこばれてきたが、肴だけではもったいないような内容の珍味だ。事実、最近では育ち盛りのこどものスナックとしても、人気を集めている。
現代のこどもは、塾通いや受験ストレスで、心身ともに酷使されている。そのイライラがこのところひん発している、校内暴力や家庭内暴力の原因のひとつであるが脳のストレスを解消する方法のひとつが良質のカルシウムをとることである。
カルシウム食品として、味、内容ともにエビせんべいほどすぐれたものはないだろう。現在の日本人は、肥満が問題になるほど、栄養は十分にとれているが、これほど豊かになっても、まだ足りない成分がある。それが「カルシウム」。こどもは、頭脳ストレスと食生活の成分的欠乏の両面から、カルシウムが不足している。「エビせんべい」は、できたら、学校給食にとり入れる必要があるほど、立派な内容をもった″国民的な珍味"なのである。

7-2.

エビせんべいの原料は、主として知多湾や渥美湾からとれるアカシエビである。エビせんべいの祖形は、徳川御三家の筆頭である尾張62万石の徳川光友公の時代にはすでに出現していたというから、その歴史は古い。
知多沿岸の漁師は、当時、エビを練って丸め、うすく伸ばしたものを一枚一枚あぶり焼きにしながら、酒の肴などにして、その風味を楽しんでいたという。土地のひとたちは、これを「えびはんペん」と呼んでいたらしい。当地を再三訪れた光友公にも献上され、公は、素朴なその味をたいへん賞讃されたと伝えられている。この「えびはんペん」が、今日の「エビせんベい」の土台になっているのはいうまでもない。

明治になって、エビの皮をとり、デンプンをつなぎにして焼き上げるという、保存性の高いものが工夫される。当時のエビせんべいは、「生地」と呼ばれていた。「生地」というのは、一度焼きのせんべいで、酒肴やお菓子としてだけでなく、″わんだね”など料理にも向く、きわめて重宝なものだった。

現在では、この生地を加熱して乾燥させ、さらに軽く焼いて仕上げている。もっとも、いまのエビせんべいでも吸いものに用いてもなかなか風味がある。こまかにしてお茶漬けにしても、香ばしいエビのうま味だけで、2、3膳は軽くこなすことができる。
東海珍味を代表するエビせんべいも、いまや全国的に普及する時代であるが、当然のことながら当地方にはその老舗が多い。その葛舗のにない手となった坂角次郎、稲垣勝太郎、池田重太郎、加藤菊次郎、大島国三郎などの諸氏は、明治から大正にかけて、「エビせんべい作り」の名人といわれたひとたちである。現在では、愛知県の特産品として、重要な産業に成長している。手焼き、機械焼きと、いずれもそれぞれの技術的な特色を生かして、ユニークなせんべいを生産しているが、なかには、生産工程の近代化によって、一老舗で40億円以上の生産額を持つところも出てきている。
ビールのおつまみによく用いられるが、洋酒にもピッタリの味だ。お茶にもコーヒーにも合う。ヨーロッパやアメリカでも、味のライト感覚がうけて好評だという。つまり、うまいものは誰が食べてもうまい。


目次 このページの最初へ戻る 前ページ 次ページ